コラム~第78回「建物の部分鑑定評価」
2025.11.19
最近、不動産を相続して評価通達通りに評価して申告したが、国税不服審判所で総則6項の適用を受け建物を鑑定評価で更正処分を受けた事例がある。(令和7年6月18日裁決)
祖父から承継した土地などの「土地活用のため」などで借入により建築した賃貸住宅12件(土地は相続人等)のほか、売買で入手した賃貸マンション3件と賃貸住宅2件(1件は建物のみ)。全部で17件を長男と孫が相続したケースです。
鑑定評価の対象となったのは、マンション3件と賃貸住宅1件は土地建物合わせた評価額、残り13件は建物の評価額でした。
その内容は、不動産の取得・借入が行われたことにより、相続税の総額は、割合では約80%減少することから、相続人らの本件相続税の負担は著しく軽減されたと認められること、被相続人は、金融機関と相談した長男からのサポートで、金融機関からの借入れを原資として、3年程度という短期間のうちに合計17件もの不動産を順次取得したこと、取得した不動産はいずれもの賃貸用物件であった。
以上などを踏まえ審判所は「被相続人は、高齢となってから、自ら又は親族の生活上の必要が特段ない状況下で、短期間のうちに少なくない数の不動産を新たな借入れによって取得したことになり、このような被相続人による取得・借入れは、収益を得る目的のみに基づくものではなかったというべき」と判示した。
また、鑑定評価については、審判所は「実質的には収益還元法による収益価挌を標準とし、原価法による積算価格を比較考量して、貸家及びその敷地としての価格複合不動産価格を決定し、次いで、当該複合不動産価格を建物と土地に配分して建物部分の価格を求めた上で、各鑑定評価額を決しており、当該手法も、不動産鑑定評価基凖に従った相当なもの」として最終的に「本件各鑑定評価額が、相続税法第22条に規定する時価を上回るとは認められない」と判断した。
鑑定評価では、部分鑑定評価いわれる手法を採用し土地建物一体評価して、積算価格と収益価格を求め、収益価格を前提に全体の評価を決定し、積算価格比により建物価格を求められている。その鑑定評価では、積算価格の建物価格とほぼ同一となっている。結果的には、積算価格の建物価格が採用されている。鑑定対象の17件の建物価格がその積算価格と同一になることには、疑問がある。いわゆる、収益還元法の還元利回りのバランスも検討を要する。
