コラム~第12回「鑑定評価と評価通達の土地評価」
2022.9.9
評価通達における土地価格は、路線価に各種補正率を乗じて更地価格が求められている。賃貸建物の土地価格については、「貸家建付地」として借家権を減価して求められている。鑑定評価では「貸家建付地」としての概念はなく、収益価格、積算価格では借家権の評価減は行わない。なお、評価通達における「貸家建付地」としての相続税評価額は、以下のとおりとされている。
路線価×各種補正率×地積×(1-借地権価格×借家権価格)=相続税評価額
仮に、地積1,000㎡、路線価400,000円/㎡、各種補正率0.90、借地権割合70%、借家権割合30%とすると
400,000円/㎡×0.90×1,000㎡×(1-0.70×0.30)=284,400,000円
路線価は、地価公示価格の80%といわれていることから、その路線価で評価された価格を地価公示価格水準に割り戻すと以下のとおりとなる。
284,400,000円÷0.80=355,500,000円
なお、本件のような賃貸不動産の評価においては、鑑定評価では「貸家及びその敷地」としての評価となるが、その評価においては、借家権の減価は考慮しないこととなっているので、借家権の控除前の収益価格水準に戻すと以下のとおりとなる。
355,500,000円÷0.79=450,000,000円
そうすると各価格の対比は以下のとおりとなる。
相続税評価額 284,400,000円 (1.00)
地価公示価格水準 355,500,000円 (1.25)
収益価格水準 450,000,000円 (1.58)
その結果、収益価格を重視する鑑定評価の場合は、路線価ベースの相続税評価額の約1.6倍となる。したがって、鑑定理論的には、収益価格を重視する投資収益物件における土地価格は、相続税評価額の2倍程度は適正な時価の範囲と窺えられる。現行の評価通達による時価はこれでいいのであろうか。また、借入金等の節税対策を鑑定評価で否認することはこれでいいのであろうか。課税の公平性の理屈はわかるが、税務署の勝手な判断で否認することは、課税の予測可能性から解脱することとなる。